世界を魅了するカザフスタンの美声 ディマシュ・クダイベルゲン 日本貿易振興機構のサイトのコラムより

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世界を魅了するカザフスタンの美声 ディマシュ・クダイベルゲン 日本貿易振興機構のサイトのコラムより

今日、このブログのコメントに、ディマシュが紹介されている記事があることを教えてくれた方がいらっしゃいました。

私もぜんぜん知りませんでした。

素晴らしい情報をありがとうございました <(_ _)>

お堅いジェトロ(日本貿易振興機構)のサイトのコラムなのですが、とても素晴らしい記事だったので紹介させていただきます。

私たちDEARSが「キャー!」とか 💖💖💖 とか、感情だけでディマシュをほめたたえていることを、きちんと論理的に冷静に書いてます Σ(・□・;)

さすが、東京藝術大学の講師です。

ジェトロ(日本貿易振興機構)アジア経済研究所 IDEスクエア コラムより

 
 
 
 
 

 

著者プロフィール

東田範子(とうだのりこ) 

東京藝術大学・桜美林大学非常勤講師。博士(音楽)。専門は民族音楽学、カザフスタンを中心とする中央アジアをフィールドとする。2020年度に受理された博士論文のタイトルは、「現代カザフスタンの伝統音楽教育における音楽学の役割——理論・実践的科目『エスノソルフェージュ』を中心に」。『カザフスタンを知るための60章』(明石書店、2015年)、『中央ユーラシア文化事典』(丸善出版、2022年刊行予定)等に寄稿。

 

第18回 世界を魅了するカザフスタンの美声――ディマシュ・クダイベルゲン
Dimash Qudaibergen: the World Captivating Voice of Kazakhstan
 
カザフスタン出身のグローバルなスター

ディマシュ・クダイベルゲンというカザフ人歌手をご存じだろうか。6オクターヴを超える声域と魅力的なルックスで2017年に中国でブレイクし、インターネットを通じて瞬く間に世界中の人気を集めた新しいスーパースターである。この文章を書いている時点で、中国のサイトWeiboの彼の公式アカウントには約800万人、インスタグラムには約350万人のフォロワーがおり、欧米、旧ソ連圏、東南アジア、南米に公式・非公式のファンクラブが存在する。日本にも公式ファンクラブがあり、豊富な情報を日本語で紹介している。ディマシュがきっかけとなって、世界の人々がカザフ語を学んだりカザフスタンを賞賛したりすることは、後述するように多民族国家であるカザフスタンにおいて、カザフ人だけでなく、非カザフ系国民にとっても大きな誇りとなっている。

ディマシュに関するニュース記事を見ていると、彼がしばしば「カザフスタン人」と形容されていることに気づく。この言葉は、語彙としては1991年のカザフスタン独立以来存在していたが、筆者の周囲のカザフ人からはほとんど聞かれることがなかった。カザフスタンでは、カザフ人・ロシア人・ウズベク人など民族でアイデンティティを表すのが一般的だ。しかし、音楽やスポーツの国際的なイベントでは、民族にかかわらず国を代表することが当然の前提となる。ディマシュがブレイクした2017年、カザフスタンは冬季ユニバーシアードと国際博覧会の大舞台となり、国民はカザフスタン人としての自覚を新たにしたはずだ。加えて同年4月、当時の大統領ナザルバエフは《精神の現代化Рухани жаңғыру》というプログラムを提唱し、「カザフスタン人」という言葉を何度も用いて未来への指針を示した。独立から30年が経ち、国際社会のなかで存在感を増しつつあるカザフスタンにとって、グローバルな名声を得たディマシュは、国の知名度とイメージを向上させ、カザフスタン人概念を構築するのに打ってつけの存在である。

中国の音楽番組《歌手2017》

カザフスタンに限らず、ロシア以外の旧ソ連諸国のポピュラー歌手が国際的に知名度を上げるには、まずロシアのショービジネスで成功するのが従来の大前提だった。そこから旧ソ連圏や旧共産主義圏へと露出が拡大し、場合によっては西洋諸国への足がかりも得られる。これまでカザフスタンからロシアに進出した音楽家も少なくないし、今もその流れは存在する。だが、中国経由で世界的な人気を得たディマシュは、その前提を軽々と覆したように思える。見目麗しく才能ある歌手が、ネット時代のグローバル社会で正当に評価された結果である、と言えばそれまでだが、中国でのブレイクにはどのような背景があったのか、改めて振り返ってみたい。

ディマシュが中国で大々的に知られるようになったきっかけは、2017年1月から3カ月間に渡って放送された湖南TVの歌番組《歌手2017》である 。この番組は、よくある無名歌手のためのオーディションではなく、すでに名声を確立した歌手たちの勝ち抜き戦であることが特徴だ。《歌手2017》の参加者は、サンディー・ラム、李健、テリー・リン、張傑(ジェイソン・チャン)など、中国大陸、台湾、香港で活躍する大物歌手だった。みな経験値が高く、中国の視聴者になじみがあるという点で、ディマシュは最初から大きなハンディキャップを負っていた。番組のプロデューサー洪涛は、中国の地方都市のコンサートでディマシュの歌を初めて聞いて驚愕し、この番組のダークホースとして彼を起用することを決めたというが、ディマシュがベテラン歌手たちに匹敵する実力を発揮できるかどうかは、洪氏にとっても大きな賭けだったに違いない。

結果的にディマシュはファイナルまで勝ち残り、2位となる健闘ぶりを見せた。最年少かつ非中華圏の参加者だったことを考えると、異例の快挙だったと言える。十数回に渡る彼のパフォーマンスはとてもすばらしいので、湖南TV公式チャンネルをぜひ見ていただきたい。この種の番組のお約束として、楽屋や客席の反応が頻繁に映されるが、ほぼ無名の若者の歌に中国の人々が魅了され素直に賞賛を送る様子も、見ていて気持ちがよい(2017年、《歌手2017》ディマシュの全出演回)。

全体を通して気づくのは、この番組が、ディマシュを「舶来的」な要素を持つ存在として演出し、それが成功したことである。実際、この番組でディマシュには「輸入おにいさん」を意味する「進口小哥哥」という愛称がつけられた。期間中12回の出演のうち、彼が中国語で歌ったのは2回のみで、その他は英語4回、イタリア語とカザフ語が2回ずつ、フランス語とロシア語が1回ずつで、全体の3分の2がヨーロッパ言語というラインアップだった。このことは、中国語が流暢ではないディマシュのハンデを軽減したとともに、カザフ人とカザフスタンの現代的で新しいイメージを、中国の人々に印象付けた。

中国には140万人以上のカザフ・ディアスポラが、主に新疆ウイグル自治区北部に居住している。筆者が中国の歌番組で目にするカザフ族の歌い手たちからは、中国語を流暢に操りながらもカザフ民謡を大切にする素朴なアジア系少数民族というイメージを受ける。一方、《歌手2017》でディマシュが表象したのは、「ロシア=ヨーロッパの影響を受けたカザフスタンの、国際志向のカザフ人歌手」というイメージだった。

ヨーロッパ発のディマシュのレパートリーを見てみよう。最も重要な初回の曲は、彼が歌い込んできたフランス語の『悩める地球人のS.O.S』だ。この歌は1978年のロックオペラ『スターマニア』の難曲だが、2004年にフランスの歌手グレゴリー・ルマルシャルがオーディション番組で歌ったことで再び話題となった。その番組がロシアでも放送されたため、この歌は旧ソ連圏でも知られるようになった。《歌手2017》でディマシュが2週目に歌ったロシア語の『オペラ2』は、ロシアで活躍し世界的にも知られる歌手ヴィタスの看板曲で、旧ソ連圏の歌い手が好んで挑む曲だ。ディマシュは最後のホイッスル・ボイス(超高音域)部分を半音ずつ3回も上げ、ヴィタスの音域すら超えた超絶技巧によって聴衆を沸かせた。

3週目以降にディマシュが披露した以下の曲も、旧ソ連圏ではよくカバーされている――ベルギー出身のララ・ファビアンの『アダージオ』(1997)、イタリア人歌手アドリアーノ・チェレンターノの『コンフェッサ』(2002)、仏米英の合作映画『フィフス・エレメント』で異星人プラヴァラグナが歌った『ディーヴァ・ダンス』(1997)。ファビアンは2010年代にロシアの作曲家兼プロデューサー、イーゴリ・クルトイに招待されて、ロシアでの活動基盤を開拓している。なお、クルトイは、2018~2020年にロシアでのディマシュの足場も築くことになる。チェレンターノは1970~1980年代以来ロシアで人気を博してきた。『ディーヴァ・ダンス』は人間が歌えない高音を含むとされ、オリジナルには合成音が用いられたが、後に生の声による歌唱に挑む人が増え、ヨーロッパやロシアのコンクール番組ではよく披露される。このように、ロシアは文化面でヨーロッパとの独自のパイプを持っており、ソ連崩壊から30年が経った今も、メディアや人材を通して旧ソ連諸国にヨーロッパを媒介する役割を果たしているのだ。ディマシュはこの恩恵を最大限に受けてきた。《歌手2017》では、他の参加者のカバー曲が英語曲のみだったのに対し、ディマシュのレパートリーは多言語・多文化性を存分に印象付けた。

だからといって、ディマシュがロシア・ヨーロッパ的なメンタリティで育ってきたかというと決してそうではなく、彼自身が多くのインタビューで語っているように、彼は祖父母の元で、カザフの詩や音楽、伝統・慣習に深く親しんできた。実際、彼の故郷アクトベ州は、カザフ文化を大切にする傾向が強いといわれる地域の一つだ。民族的アイデンティティを保ちながら、隣の文化大国のリソースを学ぶことを、ディマシュはバランスよく実現してきたのだろう。

カザフ人+現代東アジア風メイクオーバー

ディマシュが《歌手2017》で示した声楽的技術とパフォーマンスはレベルの高いものだったが、あれほどの引力を発揮し多数のファンを即座に獲得できたのは、外見の魅力によるところも大きかっただろう。2017年以前の彼の見た目には、あえて流行を追わないこだわりも感じられる(動画参照)。ちなみに、男性の長髪、特にワンレングスはカザフスタンではかなり例外的だが、クリエイターの一つのアイデンティティでもある。

2014年、《国民ショー》で『僕のきれいな人』を歌うディマシュ。
2015年、《夜のスタジオ》で自ら作詞した『忘れがたき日』を歌うディマシュ。
 

《歌手2017》の演出は、ディマシュの外見に現代東アジア的トレンド感を与えた。耳を出した短髪で清潔感を増し、前髪を下ろしてトップにボリュームを持ってくることで、顔を小さく見せた。メークは中性的雰囲気を作り、顔の彫りを強調した。すらりとした長身が映えるように、黒を基調としたオーバーサイズのトップスで抜け感を出した。中国で現在人気のある俳優や歌手の画像を見ると、細かい違いはあるとしても、上記のような傾向は共通していることがわかる。このような美意識は韓流・K-Popに由来するもので、中国では既に2000年頃からその受容の歴史がある(羅2013)。

一方、カザフ人男性のあいだでは、前髪を短く立ち上げたり七三分けにして額をすべて見せる髪型のほうが、前髪を下ろすより圧倒的に主流派だ。また、細身よりは頑健さ、少年らしさよりは大人の落ち着きや頼もしさが好まれる傾向がある。カザフスタンでも韓流・K-Popは浸透しつつあり、K-Popに強い影響を受けたQ-Pop(Qはカザフスタンのローマ字転写Qazaqstanより)という潮流も順調に展開している。しかし、中性的・少年的な男性像そのものは、カザフスタンのショービジネスではまだ一般的ではない。そのため、もしディマシュが中国に行かなければ、あのようなメイクオーバーはあり得なかっただろうと思うのだ。結果的に、新しいディマシュの外見は中国をはじめ世界で熱狂的に受け入れられた。異なる文化圏どうしのコラボが、想像以上の化学反応を起こしたといえる。もっとも、《歌手2017》以降のディマシュは、ツアー先のTPOに合わせて、ときにはフォーマル、ときにはワイルドな格好でファンを楽しませているようだが。いずれにせよ、カザフスタンが、ロシアを中心とする旧ソ連圏だけでなく中国というもう一つの大国と文化的関係を強めることで、今後ますます新たな展開が期待できるだろう。

国を挙げたクリエイティブ産業の育成

カザフスタンは、2021年からクリエイティブ産業の本格的な育成に取り組み始めた。2月には旧首都アルマトゥにクリエイティブ産業局が、5月には首都ヌルスルタンにクリエイティブ産業開発評議会が設置され、創作活動の促進、文化施設のサービス向上と現代化、投資の誘致などを戦略的に目指している。上述の《精神の現代化》プログラムには、独立後のカザフスタンの発展に貢献してきた100人を毎年選ぶという企画《カザフスタンの新しい100名》が含まれ、医療、文化、スポーツ、学術分野などで活躍する人々から多くの応募がある。これらは、カザフスタンが2050年までに先進30カ国に入るという国家計画の一部であり、具体的な数字で人々を駆り立てるところに凄まじい意気込みを感じる。今後、ますます多くの才能がカザフスタンから世界に知られることになるかもしれない。

ディマシュは、このクリエイティブ産業の筆頭株とみなされ、2019年末にアメリカで行われた彼のソロ・コンサートは文化・スポーツ省が企画・支援していた。同省文化・芸術部門のディレクター、クミス・セイトヴァは、その成功が同省の貢献によってこそ可能になったと主張する。

どんな才能でも、それを人々に知ってもらい、自己実現しなくてはならないという課題があります。我々はこのことに長い間、計画的に取り組んできました。……[裏方の仕事は]退屈なことも多々ありますが、それがなければカザフスタンの多くの天才を世界に知らしめることはできません。……民間のプロデューサーはお金にしか興味がありません。……それは私たちの文化を完全に劣化させてしまいます。文化の番人である私たちは、それを否定し、真の精神性を普及させる必要があります。ただ流されるままでは、ディマシュ[の国際的成功]はあり得なかったでしょう。

ディマシュのパフォーマンスの内容に文化・スポーツ省がどこまで介入しているかはわからないが、コンテンツはまず個人の能力と努力があって生成するという事実は変わらない。また、たとえ多くのスタッフが裏方として日々退屈な仕事をしていても、個人の魅力を前面に出すことが目的なら、スポンサーやオーガナイザーがそれをおびやかすような発言をすべきではないだろう。そして、どれだけプロダクトの制作と宣伝が壮大に行われても、聴き手がそれを鑑賞することを主体的に選択しなければ大きな支持はされ得ない。上記の発言には、国家による文化の統制というソ連時代の慣習のこだまが聞こえるような気がするが、その歴史が繰り返されないような仕組みを確立する必要がある。ディマシュのような壮大な規模ではなくても、カザフスタンのロシア語のヒップホップはロシア・旧ソ連諸国のマーケットで人気があるし、韓国にはQ-Popのファン層も存在する。また、近隣の中央アジア諸国とは以前から互いのポピュラー音楽を共有(ときに剽窃)し合っており、その領域を整備すればクリエイティブ産業として十分に成立する可能性もある。ディマシュが示したように、独自の地政学的な位置と多文化性はカザフスタンの大きな強みだ。国が求めるカザフスタン・カザフスタン人像だけにこだわらない、自由で多彩な創作活動が今後も続くことを期待したい。

※この記事の内容および意見は執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式意見を示すものではありません。
参考文献
  • 羅京洙(2013)「東アジアにおける文化の『域際化』――『韓流』現象を中心に――」『学習院女子大学紀要』第15巻、187~199ページ。

                 東田 範子 Noriko Touda 2021年9月

 

ななせ様、素晴らしい記事を紹介いただきありがとうございました。

東田範子先生、ディマシュに対する鋭いコラムありがとうございました。

ジェトロ様、記事を紹介させていただきました。ディマシュに対する記事、またお願いいたします<(_ _)>

 

 

カザフカラーのパーカーに合わせたかのようなブルーの花束 2021年10月11日

今日2021年10月12日はリハーサルだったようです。

日本で私の周りにいる27歳の若者は、私にとってはまだまだ「お子様」です。

でもディマシュは違う Σ(・□・;)

年齢を超越した存在なのです。

ディマシュから、今日も目が離せない私です 💓

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